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【対談】共感デザインから「開かれた都市太田」へ

新春対談 太田JC

「開かれた都市太田」を実現するべく、地域から共感される組織を目指す2019年度の太田青年会議所。その活動を始めるに当たり、全国各地で地域住民が参加して地域活性化をさせる活動を展開しているコミュニティデザイナーの山崎亮さんに、まちづくりの在り方についてお話をうかがった。

コミュニティをデザインする仕事とは

深澤: まず山崎さんのご活動で、コミュニティをデザインするお仕事をされていると思いますけれども、元々は建築のお仕事ですよね。比較的まだまだ新しいお仕事だと思いますので、そこを始められるまでの経緯について、教えていただけますか。
山崎: 建築の設計をやっていると、個人の住宅を設計する時はそこに住んでいる人の意見を聞きながら空間を設計するじゃないですか。公共建築になると、美術館・図書館など、そこを使う人の意見を聞きながら 設計する事が急にできなくなる。というのは、不特定多数の人が使いますから、年配の方や若者、子どもたち、話を聞かなくてはいけない相手が例えば太田だったら21万人も居ると。その人たちの意見を聞きながら設計って難しいというようになってきたんです。その大量の人たちに話を聞いて設計に反映させるにはどうしたら良いかと考えていた時に、ワークショップというものがあるという事を知ったんです。意見を言いたい人たちが100人とか200人規模で集まり、その人たちが6人位のチームに分かれて話し合いをして情報を共有するという仕掛けがあれば、100人分の意見を設計に反映させる事が出来るなと思ったんですね。そのワークショップなんて事をやっていたら、実は意見を反映させるだけではなくて、話し合っている人同士が仲良くなって、結局意見を取り入れて設計したら、出来上がった公共空間をまるで自分達が設計したかのように使いこなしてくれる。この状態が面白いなと思って、人々の意見を聞いたり、その人たちが組織になって活動を起こしたりする所を仕事に出来ないかなと思いました。こういう仕事の事を何と呼べば良いか分からなかったので、コミュニティデザインという風に呼ぶようになったんです。
深澤: コミュニティデザインという概念自体は少し前からあったと思いますが、実際に実践されている方はまだまだ少ないんですよね。
山崎: 公共建築を設計する時に、コミュニティの意見を聞きながらデザインして行くという仕事をやられていく方は多かったのですが、我々はそれだけではなくなってしまって、お寺を元気にしたいのだけれど、地域の方々がここに来て楽しくなる方法を考えて欲しいと言われて、設計はしないけれど地域の人たちが集まってきて、活動する中でその概念を広げていくことを考える。設計図面を描かないのにコミュニティデザインをやっているタイプはあまり多くないと思いますね。
深澤: ご著書の中でも「ものをつくらないデザイナー」とおっしゃっていますね。地域によって感じ方も違うでしょうし、年齢が違う方も非常に多い中で、どの様に住民の方の参加を促したりしているのでしょうか。
山崎: ワークショップやりましょう、まちづくりやりましょうと言うと、なにか正しい事をやるというイメージになりがちな所を、いかに正しいだけではなくて楽しいと思ってもらう場所にしていけるか、ここはよく工夫をしている所ですね。それから来てもらった人たちが色んな意見を出すけれども、その意見を上手く纏めて行く方法ですね。少人数で喋ってみたり、歩き回りながら喋ってみたり、あるいはカードゲームみたいのを事前に作って、ゲームでやっていくというやり方、風船に色んな物を浮かせて吊るしてやったりする場合もあります。話し合いの方法によって出てくるアイデアが変わりますので、そうそうこういう意見があったよね、みたいな事を思い出してもらうという話し合いの場をデザインしていく事もやっていますね。

はじめから答えは用意せず 話し合いでつくる

深澤: 外国人との共生などをテーマに扱ったりしたことはありますか。
山崎: ないです。ただよくアドバイスを求められますね。地域共生で外国人の方々とどうやって共生していくのか、日本語学校の方々と話をしたりしますね。外国人の方々は色々得意技を持っていたり、それぞれの 国の文化を持っていたりしますから、そういうの上手く交換して行く場が出来れば、日本にお住いの方々にとっても凄い面白いプロジェクト生まれる気がしますね。
深澤: 交換していくには、どういう方法があると思いますか。
山崎: 料理とかいいんじゃないですか。ワークショップやりましょう、それぞれの国の料理を作りたいんだけどと言って、それぞれの参加者が食材を持ってきてくれて、一緒に作りながら話合いをしてとか。
深澤: そこで相互理解していくという事ですね。ところで、山崎さんの本の中に、デザインする場所のリサーチなどをする中で、スタッフさんがその町のパン屋さんに行ってみたり、カフェの雑誌を見たりする事で、その町の傾向が分かるみたいな事が書かれていたんですけれど、他にもこの町はこういう感じなのかなといった、ヒントになるような物などはあったりするのでしょうか。
山崎: 地域に行って見つける事が多いですね。香川県の観音寺市という所の商店街を元気にしたいというプロジェクトに行った場合は、商店街を歩かせてもらいましたね。歩いていると、お店の中にもう一個違うお店が入っているという所が多かったんです。これは、儲かっている時は店を大きくしたんだけれど、いまはなかなか物販で物を買ってもらえない時代になってしまった。でも大きくした店を小さくすることは出来ないという事で、半分を別の人に貸しているという所が多くて、これは彼らとしては恥ずかしいと思っているかもしれないが、外から行った僕らとしては、下着屋の中にケーキ屋が入っていたりとか、凄い面白い組み合わせだと思うんですよね。だからそういう組み合わせを、逆にもっとどんどん増やして行くのはどうだと商店の方々と話をして「ショップインショップ」という、今全部使っているお店も棚を寄せてくれと、半分を空けてそこを若い人に貸してあげてくれと言って、店の中に新しい店を作っていくプロジェクトをやる場合もありました。
深澤: 現地に行ったりワークショップを始める前には、どうなるかは想像もつかないということですよね。現地に行って、見て、話しを聞いて生み出される話しですね。
山崎: そうですね。それならこんなことができるんじゃないかと思うことですね。なので、こんな結論にしますよという話しはできないので、行政のかたには、住民が自ら動き出していくということについては我々が実現します。という言い方にしていますね。
深澤: セミナーや企業のコンサルティングだと、答えありきで動き出すようなこともありますよね。
山崎: 最初は少し勇気がいると思います。答えがわからないけど、プロジェクトを走らせるというのは、どこかに答えを用意しておこうかなとか、初めから落としどころを決めておこうとか考えてしまうと思います。
深澤: そういったものは考えずに始めるのですか。
山崎: そうですね。なので、落としどころが見つからないときは焦りますね。やばいやばい、もう今年度終わるぜ、どうするよ、とか思いますよ(笑)
深澤: (笑)そういうときはどうされるんですか。
山崎: そういうときもやはり、住民との対話ですね。とにかく本人たちがやると言わない限り、僕たちが外から言っても続かないんですよ。この意見は自分たちが言い始めたって思わないと。

「関係の質」を高めて事業を成功させる

深澤: 他人事でなく自分事にしていかないと、ということですよね。我々も地域の人たちから共感されなければならないと思っています。青年会議所って何をしている団体かよくわからないと思われているかもしれない。本年度は「共感をされる組織運営」ということもテーマとしてやっていこうと思っているのですが、山崎さんは住民の方々の共感を得ていくためにはどんなことを心がけているんですか。
山崎: ダニエル・キムという人が組織の成功循環モデルというのを書いているんですよ。その法則によると、最初に関係性を構築し、そのあとに思考が高まって、行動が高まって、結果の質が高まる。結果の質が高まるからまた人間関係の質が高まるっていうサイクルがあるって言っているんですね。我々はどうしても地域の中で認められようとか、知ってもらおうと思って結果の質を高めようとしちゃう。そのためにどう行動するのかとか言い始めるんです。行動するためにはアイデアがいるからみんな考えて考えて行動して結果を出しましょうってなっちゃう。でも実は考える前に地域の人たちとの関係性をちゃんと作ることが大事で、JCってどういう職種の人たちがいて、その人たちがたくさんの時間を作って活動してくれているんだと理解してもらったうえで話をすれば、そこで話をした内容のアイデアってだいぶ変わってくるんですね。JCって何者だって思って見られている時よりも、何者かわかった時に話をした内容のほうが良いアイデアがでてきます。その良いアイデアがでてきたものによってちゃんと行動をすると、みんな協力的に行動をするようになるので、結果が出せるようになる。結果が出せたら、みんなでハイタッチしたりして、イエーイと盛り上がるので関係性がさらに一段上に行くと。
深澤: 信頼関係の構築ですね。やはりそういう関係の質は大切ですよね。
山崎: アイデアをどう高めるとか、良いアイデアがでる発想とか、いっぱい本が出ていますけど、発想法の前に関係の質を高めなきゃいけないし、あとPDCAとか言うけど、プランニングする前に関係性を作らないと良いプランニングは出来ないよね。
深澤: みんなで参加してやっていくということが、実は当事者との関係性であったり信頼であったり。実際我々も多く時間を共にして一緒に何かをしている人ほど、ぱっと言えばすぐ伝わるんですよね。
山崎: そうそう。例えば、先週青年会議所にはいりましたっていう若手がね、急に知ったように、「JCってこうやってやったらいいんですよ!」って言ってもみんな言うこと聞かな いでしょ。その人との関係性が出来てないのに、どれくらいすごいアイデアを言われようと、何だこいつ生意気だなって思うだけで。地域との関係も一緒だと思うんですよ。どのくらい関係性を作ったのかによって同じ人が言って同じことを言っても、違って響いてくることもあるので、せっかく良いアイデアをもっている人が地域にいるのにその人との関係がうまくできてないからその意見が上手く反映されないということがありますよね。
深澤: なるほど。たくさんの貴重なお話ありがとうございました。
山崎: こちらこそ楽しい対談の時間でした。太田青年会議所さんの今後の活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

山崎 亮(やまざきりょう)
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院(地域 生態工学専攻)修了後、SEN環境計画室勤務。三宅祥介からデザイン、浅野房世からマネジメントを学び、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザ イン、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。2006-2010年には(財)ひょうご震災記念21世紀研究機構(林敏彦研究室/中瀬勲研究会)にて中山間離島地域の集落について研究。2006-2013年には東京大学大学院工学系研究科にて大西隆に師事(都市工学科)。現在は、studio-L代表、東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)、慶應義塾大学特別招聘教授。主な著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社)』『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』『まちの幸福論(NHK出版)』などがある。

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